品質管理部の藤田匠です。
2006年に新卒で入社、今年で13年目になります。
入社してから2008年までの2年間は、ビル建材事業部の設計としてマンション手すりの設計を経験しました。
2009年~2015年までは住建事業部の営業設計としてハウスメーカー向けのバルコニー手すりの開発を行い、2016年からは現在の品質管理部の仕事をしています。
2015年から約2年半かけて、『KastomWall(カスタムウォール)』という製品の開発を行いました。
既存の物・人を活かすという縛り
KastomWallは、当社では既に売上の柱となっている階段製品とは別に、新たな柱となるものを開発しようと発足した「新商品開発プロジェクト」の中で私が起案したことからスタートしました。
2015年のプロジェクト発足当時、階段製品は順調に成長してきていたのですが、住宅着工戸数の減少が予測される状況で「いつまでもこの製品に頼りきりではまずい」という考えのもと、以下の4つのポイントを軸に企画を膨らませていきました。
・階段や手すり以外のもの
・住宅以外にも設置可能なもの
・既存のチャネルに流通可能なもの
・既存の設備やサプライヤーを活かせるもの
特に4つ目のポイントは、当社の経営資源=営業・設計・製造・施工とそれぞれの能力を洗い出した上で、その範囲内で出来ることを考えるという、非常に難易度の高い課題でした。
間仕切りの可能性に行き着く
まず製品の着想に当たっては、当社の理念「美しく快適な空間づくり」をベースにして考えました。
快適な空間を構成するひとつの要素として、シースルー性から生まれる「開放感」というキーワードがあります。
光・風・視線が抜けることで広く明るく快適な空間になるという考えは、当社の階段・手すり製品の多くで実践されています。
それらが既に売れ筋となっていることが快適さの要素としての「開放感」の重要性を示していると考えました。
そこで、同じような価値を階段以外でも提供することを軸にアイディアを膨らませていく中で
「階段は上下の空間をつなぐもの。フラットな場所でも開放感を得ながら空間をつなぐものがあれば、戸建て以外のマンションやアパートにおいても快適な空間を提供できるのではないか?」と、企画の下地が出来上がりました。
その当時、リノベーションで空間を切らずにあえてひとつにまとめてしまうような間取りが雑誌やTVなどで注目されていました。
一方で、そこまで大幅に変えてしまうことに抵抗がある方もいるのでは?と推測し、間仕切りに新しい付加価値を加えて空間演出する手段を考えていきました。
参照:LIFULL HOME’S
間仕切りは、日本において独特の使い方をされてきた建具です。
障子や襖というのが古くから使われてきた日本の間仕切りですが、以下の2点で欧米の建具とは異なります。
・取り外し可能で、空間を繋げられる
・間仕切りを挟んだ向こう側の様子がなんとなく分かる
空間をフレキシブルに使って住まうことが日本人独自の感性から発生したものだと捉え、その感覚を製品特性に加えていくことにしました。
参照:Wikipedia(石谷家住宅)
その感性と共に、私が好きなデザイナーであるディーター・ラムス(Dieter Rams)の『606 ユニバーサル・シェルビング・システム』を開発の参考にしました。
この「使う人や空間に合わせて変化させていく製品」というアイディアを取り入れることになります。
参照:ディーター・ラムス
スケッチの奥側に見える棚が『606 ユニバーサル・シェルビング・システム』
勝てる見込みのある領域を分析
間仕切りというカテゴリーで見ると、アルミ形材を使った製品が複数のサッシメーカーで商品化されています。
その商品の多くは、サッシや室内ドア等と意匠を統一できることを売りとしており、幅広い顧客のニーズに対応できるよう実に多様なデザインバリエーションを設定しています。
これらの製品と同じ土俵で勝負するのは得策ではないと判断し、当社でしか出来ないことを考えました。
「既存のものを活かす」「開放感」「ディーター・ラムス」「当社にしか出来ないもの」というキーワードを元に企画を突き詰めた結果、以下のことを最終的な製品コンセプトとして開発を進め、具現化するに至りました。
・スチール製
・線を細くし、ディテールにこだわる
・空間を完全に隔てるのではなく、つなぐ機能を持たせる
『KastomWall(カスタムウォール)』とは、自分でパーツを「カスタム」して使うことを想定している「壁」なので、それを製品名としました。
本来の英語では「Custom」ですが、商標取得ができなかったという裏事情から、KATZDEN ARCHITECの頭文字を取って「Kastom」となっています。
KastomWallのある空間
KastomWallは、新築住宅だけでなく様々な空間や状況においても使用されることを前提にしています。
例えば、大きな予算がかけづらい住宅のリフォーム、オフィス、店舗などにおいて、大掛かりな下地工事が必要ないような設計にしています。
ライフスタイルやその場所ごとの用途に合わせて自由な間取りを実現する一助となることを願って開発しました。
例えば、リビングもダイニングもキッチンもひと繋がりの大きい部屋を持つ住宅に使用した場合、大きな空間をKastomWallや家具で緩やかに仕切る。
それを完全な壁にはせず、光や風を感じられる空間にすることで、ともに暮らす家族とのコミュニケーションがしやすくなります。
襖や障子で空間を緩やかに仕切って生活していた日本人らしい空間を現代に取り戻すようなイメージです。
意匠をどこまでこだわるか
どの製品でも語られるでしょうが、苦労した点はやはり意匠性と施工性のバランスです。
施工性を優先して開発すると、どうしても部材寸法が大きくなったり部材点数が多くなります。
今回は最大限に意匠性を追求する事でカツデンアーキテックらしい製品に仕上げたかったので、施工性を試すために何個もの試作品を作りました。
また、それによって上がってしまいがちなコストをどのように抑えるか、この点においても非常に苦労しましたし、現在進行形で様々な角度からコストカット案を検討しています。
一次試作品
施工性に偏っていて、支柱が太く納まりの意匠性も悪い
まとめ
KastomWallは、
・空間を緩やかに繋げること
・その空間の用途によってパーツの組合せができること
が通常の間仕切りと大きく異なる点です。
お気に入りの置物を並べる飾り棚として、趣味のための小さな書斎として、子供の勉強スペースとして、リビングやダイニングに+αの居場所を作り出すことが可能になります。
パーツの位置や高さを自由に変更しながら、ライフステージの変化とともにその場にあり続けることがこの製品の価値です。
是非、自分たちらしい「我が家ならでは」の住まいをKastomWallを通して実現して欲しいと思っています。