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KATZDENブログ
2018.08.20 商品開発

新商品開発秘話 Vol.1 サイクルスタンド『D-NA Llatina』

新しい サイクルスタンド 自転車止め
はじめまして。坂田右京です。
学生時代は建築を学び、2016年に入社しました。
住建事業部で営業設計を経験した後、2018年に設計部へ異動し現在に至ります。
まだ入社して数年ですが、その中で経験した特に思い出深い仕事である商品開発のお話を今回ご紹介します。

私が今回ご紹介するのは『D-NA Llatina(ディーナ ラティーナ)』です。
2017年にリリースされたアルミ製のサイクルスタンドで、その有機的なデザインが特徴です。
ユニークな製品にはユニークな開発秘話が!ということで、開発者である私が、拙文かと存じますが商品リリースに至るまでを語っていこうと思います。

板金では出来ない形状を目指す

まず、この製品を開発するに至った経緯からお話します。

健康意識や環境配慮の観点から自転車保有台数は右肩上がりで、当社の景観配慮型サイクルスタンド『D-NA(ディーナ)』は好評をいただいています。


自転車施策をとりまく環境(警察庁)から抜粋

今までのD-NAシリーズの商品は全て板金によって製造されたシンプルモダンなデザインが主でしたが、今後の需要増加を見越して新たなデザインのものを作ろう、となったことがきっかけです。

当社は金属加工メーカーであり、アルミ・鉄・ステンレス等の板金製品を主に扱っていますが、金属の板を切ったり、曲げたり、溶接したり・・・という加工では製造が難しい、厚みを持った立体的な部品などは、鋳物を設計して対応しています。
鋳物とは、簡単に説明すると「つくりたい物の形をくり抜いた”型”をつくり、そこに溶かした金属を流し込んで固めた製品」です。
鋳物にも種類はたくさんありますが、Llatinaは「アルミ砂型鋳物」という種類に該当します。

鋳物ならではの自由な曲線、有機的なデザイン、厚みを持った高級感をサイクルスタンドに落とし込められれば、板金では出来ない面白い形ができるのでは?と思い、アイディアを膨らませていきました。

Alegre Designへの依頼

D-NAシリーズをはじめ、当社製品で幾度に渡りコラボレーションをしている、スペイン人インダストリアルデザイナーMarcelo Alegre氏率いるAlegre Designへ、まずはデザインを依頼しました。
依頼にあたっては、上述の通り「鋳物ならではの3次元的な自由な曲線」をコンセプトに、またPublic/Privateいずれの空間にもマッチするようなデザインを重要視しました。
Alegre Designは、特に「Publicなデザイン」という要望に着目し、我々日本人のDNAに刻み込まれたデザインを想起させるような意匠を提案してきました。

アルミ鋳物 サイクルスタンド D-NA Llatina(ディーナ ラティーナ)
初期案の一部

日本人に密接な、城壁や日本刀、帆船などをモチーフに、それらの独特な曲線形状を取り入れたデザインが初期案として上がりました。
いずれもデザインとしては目を引くものがありましたが、サイクルスタンドとしての機能性や施工性・加工性等の観点を勘案し、上右図のデザイン(帆船をモチーフにしたデザイン)をベースに設計を進めることとなりました。

アルミ鋳物 サイクルスタンド D-NA Llatina(ディーナ ラティーナ)

本製品名は、地中海で古くから一般的であった帆船「大三角帆」を、Marcelo氏の住むスペイン カタルーニャ地方の方言で『Llatina(ラティーナ)』と呼ぶことから採用しました。
ちなみに「Latina」と、頭のLが一つだけになると「ラテン女性」という意味になってしまうので注意が必要です。

一方で、日本的なデザインから着想を得たこともあり、カラーバリエーションは日本的なものにしよう、と。
雅で品のある印象のある「黒鳶色(くろとびいろ)」、緑のある空間に溶け込み落ち着きのある「老緑色(おいみどりいろ)」、華やかさがありながら主張はしすぎない「海老茶色(えびちゃいろ)」の3色ラインナップ。
どれも聞き馴染みのない色名称ですが、どんな空間にも馴染みやすい色です。
アルミ鋳物 サイクルスタンド D-NA Llatina(ディーナ ラティーナ)

空間に溶け込み街や建物を引き立てるようなサイクルスタンド

鋳物のサイクルスタンドというのは日本ではあまり馴染みがないですが、公共意識・デザイン意識の高いヨーロッパの都市部などではチラホラ見かけたりします。
ただ、いずれもスタイリッシュで”攻めた”デザインが多く、サイクルスタンド自体がモニュメントになるようなクールなものがほとんど。
Llatinaは高い意匠性はもちろんのこと、決して奇抜にはならず、あくまでも脇役として街や建物、自慢の自転車を飾り立てるような、そんな商品を目指しました。

出来上がった完成形は、初期の複数案の良いところを統合するように、側面をこそいだような面の稜線は日本刀の鎬(しのぎ)のようなシャープさを演出し、帆の膨らみをイメージした柔らかな曲線は有機的な印象を抱かせます。
この2点目の有機的な印象については特にこだわりを持って取り組みました。
というのも、当社の板金技術では”曲線”は出せても、”有機的曲線”は不得手とする領域であったためです。
新しく「鋳物でサイクルスタンドを」ということでスタートした以上、当社ラインナップにはない革新性のあるデザインにしたいという強い思いがありました。

前述の3色展開は「日本的な色合い」でもありますが、「動植物っぽいアースカラー」というサブコンセプトも実はあったりしました。
そのため住宅の玄関前でも、都会のまちなかでも、自然の多い緑のなかでも、伝統的な木造建築の横でも・・・どんなシチュエーションにおいても溶け込むデザインのサイクルスタンド。
すべての空間にマッチするというのが、Llatinaの最大の価値です。
アルミ鋳物 サイクルスタンド D-NA Llatina(ディーナ ラティーナ)  アルミ鋳物 サイクルスタンド D-NA Llatina(ディーナ ラティーナ)

ノウハウがないところからの創出作業

鋳物の設計は当社としてはレアケースであり、社内の設計者でも、経験者は数えるほどしかいません。ましてや、普段扱っている鋳物製品は小物が多いので、ここまで大型の設計をした人などいませんでした。
そのため、鋳物のことをほぼ一から学び、検証し、試行錯誤に充てる時間が非常に多かったです。
アルミ鋳物 サイクルスタンド D-NA Llatina(ディーナ ラティーナ)
画像提供:(有)エヌ・アイ・キャスト

鋳物は型さえ作ってしまえば、どんな形でも作れますが、”作れてしまう”とも言いかえられます。自由な設計の難しさを感じました。
こんなときはこうしよう、というセオリーやノウハウからデザインが創出されるケースは多々ありますが、今回はそれがありませんでした。
「ただ形を考えればいいんでしょ?簡単じゃん」と思いきや、全くもってそうではありません。考える手がかりが無いわけです。
さらに言えば、「鋳物はどんな形でも作れる」は、厳密には「コストをかければ何でも作れる」ということ。
設計は常にコストとの戦いをする必要がありますから、そのジレンマに随分と悩まされました。

鋳造的に無茶ではない、理に則った設計をしつつ、できる限りミニマム設計にしつつ、機能性・デザイン性は損なわないようにしつつ、施工性も考慮しつつ…と、とにかく細かい設計変更の積み重ねによって、今のコスト・デザインにまでたどり着きました。
アルミ鋳物 サイクルスタンド D-NA Llatina(ディーナ ラティーナ)
3Dプリンターで制作した途中段階のモックアップ(左)と最終形の鋳物試作品(右)
様々な自転車で実際の使用感を確認しながら、ボリュームダウンを図ります。

まとめ

当然、新商品ということもありますが、今までのD-NAシリーズとは大きく異なる意匠のサイクルスタンドが出来上がりました。
「どんな空間にもマッチする」という言葉通り、様々な場所でさりげない存在感を出してくれると思いますので、是非この『D-NA Llatina』とともに、充実した自転車ライフをお楽しみください。
アルミ鋳物 サイクルスタンド D-NA Llatina(ディーナ ラティーナ) 坂田右京

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