

商品開発部の小椋俊明です。
今回はカツデンの新たな事業分野になっている、キャットシェルフ『NeconoMa(ネコノマ)』の開発秘話についてお話します。
大体の製品はつながりがあるのですが、この『NeconoMa』だけ違う角度からのアプローチがはじまりでした。
10年前のアプローチ
2010年8月。カツデン(当時:カツデンアーキテック)の営業所が4か所展開で、階段と屋外手すりがメイン事業だったころ。
開発会議にて「新たな事業展開」というテーマのブレストが行われました。
当時私はまだ若手だったため参加していませんが、
「ステンレスを使った製品はどうか」
「看板を作ろう」
「ホームセンターでも売れる施工が簡単な製品で新たな販路を」
と、当時の事業にとらわれないさまざまなアイデアが出てきました。
その中で出た意見の1つに「ペット事業」があったのです。しかし、社内でペットと暮らす社員が少なかったことで需要や売り方がわからないこと、技術がないことなどから話は立ち消えてしまいました。
時代は過ぎて2016年10月。2015年に発売した室内運動器具『AthleticSeries(アスレチックシリーズ)』が市場で話題となり、第二弾を発売、第三弾を考えていた時のことです。
「ペット共生アイテムはどうか」
開発会議で再度「ペット事業」が言及されたのです。誰の発言だったのかは覚えていません。
6年前から参加している社員もいたので、もしかしたら当時のことが頭に残っていたのかもしれません。
この頃のカツデンは、2010年と比較すると『AthleticSeries』以外にも文具シリーズ『SALED(サレド)』、薪ストーブ『HOMRA(ホムラ)』など、階段に囚われない製品が増えていたため、「今ならいける」と意見が出たのでしょう。
室内運動器具『AthleticSeries(アスレチックシリーズ)』
『AthleticSeries』は子どもや大人が健康や運動ができるアイテムをメインにしつつ、デザイン性を取り込んだ遊び心のあるコレクション。これをペットのために作るということで、ペットの中でも近年飼育頭数が増えている「猫」に注目し、私が担当として開発を始めました。
市場調査
個人的な問題ですが、まずはじめにぶつかった壁は「猫どころかペットと暮らしたことがない」ということ。しかも、開発チームが全員同じような状態でした。
そこで、オブザーバーとして猫と暮らす社員をチームに招き入れました。
まずは現状分析。
猫の飼育頭数は、犬の飼育頭数に比べ緩やかに増加しています。
下図は猫の新規飼育頭数の推移です。こちらも増加していることがわかります。
[参照:令和3年全国犬猫飼育実態調(一般社団法人ペットフード協会)より抜粋]
ペットフード協会の調査によると、猫飼育率は、60-70代女性(単身)、20-30代男性(既婚子あり)で2017年以来増加が続いているとのこと。
高齢化が進む日本では、犬と散歩するのが困難になる方が増え、家の中で猫と過ごすことを選ぶ人が増えたのだと思います。
また、ハウスメーカーでもペットと暮らす間取りプランが出ていたり、各建材メーカーでもペット関連製品が出ていたりと市場自体が盛り上がっていました。
一方で当時のキャットグッズは、
■インテリアとの調和を考えたものが少ない
■ひっかき傷でぼろぼろになりゴミがでる
■猫が視認しづらい色をしている
■スペースを多く使っている
といったように、猫と人、両者にとって良いデザインである製品がほとんどない状態でした。
そのため、壁付けでかつ人間にとってもデザイン性の高いものを作ろう!ということで方向性が決まりました。
日本にはないデザインで壁を彩る
ありふれたものではつまらない、そう考えて『AthleticSeries』や『KIDS Lofty』(現在は廃止)など、海外の革新的なデザインを取り入れることができるスペイン人デザイナー集団「Alegre Design」にデザインを依頼しました。
「インテリアデザインに馴染み、余計なスペースを取らないキャットグッズ」をコンセプトテーマとすると、彼らは早速数種類の案を持ってきてくれました。その1つが家をモチーフにした「House」です。
ダイナミックに飛び跳ねて遊んだり、ちょっと休んだり、猫にとってリラックスできる家をイメージしてデザインされたスチールのキャットステップ。
猫も性格がばらばら。甘えん坊もいれば四六時中一緒は嫌だという猫もいる。そんな猫たちにとって家の中の居場所となるようなものがこの「House」になるように。そんな思いでデザインされたものです。
「House」以外に出た案も含め試作を進めていきました。
社員の猫にモニターしてもらったところ、「屋根の部分に引っかかりがないと昇りづらそう」という声が上がったので屋根にはコルクシートを貼ることにしました。
他にもディテールの調整を行い、形状が完成しました。
猫が視認できる色とは
形の次に考えたのは色味です。
『AthleticSeries』は、遊具としてのポップなイメージを実現するため、階段のカラーバリエーションにカラフルな4色を追加しました。
今回の製品も同様に、プロダクトイメージに合う色はなにか?と考えました。
調べていくとこんな情報が。
猫と人間の色彩感覚は、少し異なっているといわれています。色の感覚は、目の「網膜」という器官にある細胞がつかさどっています。この細胞が、人間には3種類、猫には2種類あり、人間に「赤・青・緑」の3つの色が見えるのに対して、猫には「青・緑」の2つの色が見えていると言われています。つまり、猫には「青」と「緑」と、その2色が混ざった色だけが見えているというわけです。
引用:猫の目から見えている世界は?猫の視力や色彩感覚、動体視力について(松波動物メディカル)
『AthleticSeries』で追加されたのはこちらの4色。
この青と緑を使うとなると猫に合わないのでは?という話に。
あまりにもビビット過ぎてしなやかなイメージの猫と合わず、これまでに似たようなデザインがないとはいえ色を攻めすぎていると考えました。
そこで、「青色」からパステルブルー、「緑色」からペールグリーンに色変更を行いました。
このカラーは好評だったので、後に『AthleticSeries』もこの色に変わりました。
そして2017年11月、いよいよ発売。
製品名は、
・この製品が「猫のいる場所」になるように
・猫と人の間の場所として
という願いを込めて『NeconoMa(ネコノマ)』と名付けました。
実は裏テーマとして、気まぐれな猫が使わない、もしくは飽きてしまった場合にも、壁付けの棚として使用できるということも考えています。
さらなるデザインを
当社の製品は第一弾で終わり、ということがほとんどありません。
発売前からすでに第二弾の検討をはじめていました。
第一弾発売時にモニター実験を行った際、大きめの猫が「House」の中に入れないことがしばしばあるという声が上がったことから、開放感のあるタイプを目指しました。
出来上がったデザインは二つ。
一つ目は「House」を小型化したデザインです。
「House」第一弾が二世帯住宅だとすると、これは一軒家。家が一つなので価格もお手ごろになりました。
二つ目は、木から葉っぱが落ちるようなカーブを描くデザイン。
ランダムに並べることでより壁のデザインになるタイプです。
通常の平たいステップでは物足りない時にも使えます。
この二つのデザインは、『NeconoMa(ネコノマ)』第二弾として1年後に発売、バリエーションが増えることでお客様へさらに提案しやすくなりました。
ちなみに撮影小話ですが、『NeconoMa(ネコノマ)』の写真は社員の子どもと猫に協力してもらい撮影しました。
子どもも猫も自由な行動をするもので、一緒に映るカットを撮るのに数時間かかりました(笑)
しかし、そのおかげで自然体のいい写真になったと思います。
さらなるデザインを
他の製品同様、『NeconoMa(ネコノマ)』も同じく発売後も改良を続けています。
例えば、それまで合板が必要だった下地が間柱固定できるようになったり、トーンを合わせられるように木やアクリルのステップを発売したり……。
お客様からの要望をきいてキャットタワーになる製品を開発したりと、ペット共生グッズは新たな分野として進化を続けており、右肩上がりで出荷台数も伸びています。
ただ猫は撮影の時も感じたように気まぐれな生き物。
猫に飽きられないように今後も製品開発を続けていきたいと思います。