こんにちは。
D-NA Llatinaの開発秘話を書いた以来の坂田右京です。
昨年の2019年、カツデンアーキテックでは2つ目となる社員寮『ガネーシャ』を竣工しました。
が、こんなに素敵な建物であり、自社製品に囲まれた空間であるにも関らず、どこにも露出しないのはもったいないので、設計者のアスク建築設計室の佐藤彰宏氏へインタビューを交えつつ、どんな空間が出来上がったのかをご紹介したいと思います。
第二社員寮『ガネーシャ』
外観(正面)
外観(背面)
外観(側面)
玄関
共用スペース
共用スペース
共用スペース
居室(ワンルーム)
居室(ファミリールーム)
ガネーシャ建築に至った経緯
カツデンアーキテックには、1998年に竣工した『一想庵』という名称の独身寮があります。
竣工当時、当社には独身者が多く、工場勤務のために転勤したり、遠方から引っ越して就職したりする社員の負担を少しでも減らせれば・・・という思いのもとで作られました。
しかし竣工から20年以上が経過した今、一想庵、そして会社として以下のような問題が出てきました。
①人数的にキャパオーバー
ベトナム、インドネシアから受け入れている技能実習生が増え、現在では約15人が一想庵に住んでいます。
そのため空室がほとんどありませんでした。
②家族と同居できない
当社には、実習生期間を終えた後に改めて来日し、当社に就職した外国人技術者もいます。
家族を自国に残していることが心残りだということで、家族で住める社員寮を作れれば、選択肢が増えて安心して活躍できるのでは、と考えました。
また、日本人の工場勤務者を増やす狙いもありました。
メーカーとして核となる工場を知っている人材を育てたいものの、なかなか希望者は少ないのが実情です。
特に全国に点在する営業所は殆どが都会にある一方、工場は田舎町にあるため、転勤に抵抗がある社員が少なくありません。
家族と住める心地良い空間を提供できれば、少しは希望者が増えるかもしれません。
③生活空間に設置された製品を見られる場がない
当社の木部工場には各製品を展示しているショールームがありますが、実際の生活空間の中で使用されている自社製品を見る機会はほとんどありません。
営業職であれば、納入後にお施主様のもとを訪ねてインタビューをする際に垣間見ることもありますが、特に工場に勤務する生産職の社員が使用されている姿を見ることは難しいのです。
いつでも訪れることができて、自社製品をふんだんに使った生活空間を工場の近くに設けることで、製品への気付きを促し、モチベーションをUPさせたいと考えました。
ガネーシャ設計者へのインタビュー開始
坂田右京(以下 右京):と、上記のことが経緯となりますが、佐藤さんは一想庵、木部工場、団地工場という、カツデンアーキテックの核となる建物の設計に携わっていて、さらに今では設計顧問として力を貸してもらっています。
カツデンアーキテックとの付き合いとしてはかなり長いですよね。
佐藤彰宏氏(以下 佐藤):最初のプロジェクトから、もう20年以上になるんだね。
今は当時勤めていた設計事務所から独立しているけど、立場が変わってもこうして携わらせてもらえることはとても嬉しいよ。
社長を含め、長く関わってる人たちはお互いに何を考えているか理解できるようになってきたと思う。
右京:ガネーシャの顔にもなっている『DEROUS』の開発もそうですし、様々なところで力になってもらってますね。
今回も、佐藤さんの「面白そうならとりあえずやっちゃえ!」精神みたいなところが当社の肌に合うと思っていて、ありきたりにはしないし、かといって奇抜でへんてこにもしないという信頼感がありました。
佐藤:設計事務所にいたころは、どうしても会社員ということもあって自分の思い描くものを実現できていなかった部分もあって・・・
『DEROUS』のときに尖った製品づくりを意識したけど、今回のガネーシャも、とにかく新しい発見というか、サプライズというか、このガネーシャに住まうことで感動を与えられたら良いなと思っていたんだよね。
内部は快適な居住スペースと開放的な共用スペース、外部はデザイン性の高い建物にしようと設計したけど、特殊な条件がいくつかあって・・・
右京:側面から見ると分かりますが、敷地を半分に分けるように1.5mもの段差がありましたからね。
これを平坦にならすとなると、整地工事のコストがかさんでしまいますから、この土地の状態を利用した建物にしてほしいという要望を出しました。
佐藤:段差については、高低差をそのまま利用してスキップフロアとして、縦方向への空間の広がりをもたせたんだけど、木造で段差のある建物というのはRCに比べると難しい部分もあったね。
ワンルームを4部屋、ファミリールームを2部屋という要望に加え、ワンルームには3人が快適に居住できる部屋という条件もついていたことにはちょっと頭を使ったね。
3人が同じ部屋でありながら、ある程度のパーソナルスペースを保てるようにしなくちゃいけないから、間取りを工夫しなければならなかった。
右京:工場研修期間の新入社員や、技能実習生が入寮する際には、複数人で共同生活することになるので、そういった条件になりました。
佐藤:その3名分の平等性を持たせたのはこだわりポイントだったね。
誰か1人分のスペースだけ広かったりするとケンカになっちゃうから(笑)
右京:心遣いありがとうございます(笑)
佐藤:ファミリールームには、ミニ階段を設置したスキップフロアを設けて、広々とした空間で家族が快適に過ごせるように配慮したし、実際にそのようにできたと思う。
共用スペースはもちろん、オーダー通りどの部屋も住心地は良いはずだよ。
右京:共用スペースや外部はかなり特徴的ですが、こちらもかなりこだわったのではないですか?
佐藤:共用スペースには、『DEROUS』、『HOMRA』、『Athletic Series』、『NeconoMa』を配置したことに加えて、壁面は漆喰とタイルを組み合わせて非日常感を演出することを意識したかな。
外部のこだわりポイントは、白と黒のコントラストと屋根の形。
それによって屋根周りの板金、軒裏の木材の納まりは少し苦労したけど、インパクトがあってカツデンアーキテックっぽい建物になったんじゃないかなという自負はあるね。
10種類以上の自社製品がある建物に
右京:カツデンアーキテック製品は共用スペース以外にも、居室内のパーティションとして『KastomWall』を、外部には『D-NA』や『サイクルポート』をプランに入れてもらいました。
他にも玄関前のアプローチ階段や外構フェンスは、「市販品より格好よい自社オリジナルを作れないか?」と思い立ち、『Aproad』(今年中発売予定)、『Design Frame』として製品化したものもありました。
佐藤:他にも目隠しルーバーとか、パーゴラとか、ちょっとした特殊な金物とか・・・
「カツデンアーキテックで作れそうなものはとにかく作っちゃえ!」と、もはや製品化の可能性を度外視して色々盛り込んじゃったね(笑)
右京:自分含め、社長や社員も毎日現場を見ていると、「あれ、買わないで自分たちで作れないかな」「市販品、ダサくない?」「職人さん大変そうだからもっと楽に施工できるようにできないかな」とアイディアが出てきます。
そのせい(おかげ)で、次々と制作するものが増えていったので私はてんてこ舞いになりました(笑)
さすがに一人で全部設計することはできないので、商品開発部に協力してもらいました。
せっかく設置するなら、と現行仕様の改良案を入れ込んでみたりして。
今まで作ったことないような仕様・物が同時期にたくさん手配されてくる上に、繁忙期とも重なってしまって・・・生産部にはかなりハードな思いをさせてしまいました。
当社の製品は、多く採用されても1邸あたり3製品くらいが関の山ですが、ガネーシャには10種類以上あって、改めて見ても興奮しますね。
佐藤:これだけ製品があるから、社員の建築や製品の勉強の場として、綺麗に保てるならお客さんを連れてくるショールームとして、上手に利用してもらえるといいね。
今後も新商品の実験・試作の場としても活用してもらいたいかな。
右京:そうですね。
関わってくれた方々も、「ガネーシャのために!」と一致団結してくれていたので、愛着を持ってくれていると思います。
今後、製品化するための試作品をガネーシャに取り付けようという話も開発会議で挙がってましたし、色んな形でカツデンアーキテックの一部になっていくと思います。
佐藤:これから製品化する可能性があるものに関しては、私もいくつか議論に参加したものがあったけど、設計者のアイディアを現実的なものとして実践させてくれるのがカツデンアーキテックの良いところだね。
今回のガネーシャでも言えることで、設計者側はもちろん失敗しないように考えているものの、大袈裟に言うとその失敗さえも享受してくれるところにメーカーとしての器を感じるな。
右京:製品化されているものも、されていないものも含めて、カツデンアーキテック製のものを今回は数多く取り付けることになりましたが、苦労した点はありますか?
佐藤:実際の取り付けが、現場合わせの要素が多くて、そこには少し気を遣ったかな。
石膏ボードの厚さとか、穴の位置とか、現場作成物とカツデンアーキテック作成物の取り合い納まりには配慮しないといけないんだけど、苦労っていうほどの苦労じゃない。
右京:なんか苦労話の1つでもないと、インタビュー盛り上がらないですね・・・
佐藤:クライアント的にはそれが一番だろ!(笑)
右京:確かに!!
島根益田工場のコンセプトとの関係性
佐藤:右京くんは初めて施主という立場で関わったけど、どうだった?
右京:単純な施主ではないですが、面白かったですし、大変でしたね。
決めるものが多くて疲れてきますし、ドアのレバーハンドルとか装飾品とかの細かいものは、だんだんと「何でも良い!」と思ってしまっていたのが正直なところでした。
失敗する事も含めて、「決定する」ことをここまでたくさんさせてもらうことはなかなかないので、良い経験になったと思います。
佐藤:島根益田工場では、もっとたくさんのことを考えなくちゃいけないし、決定することに責任が伴うから大変かも。
右京:2020年6月竣工に向けて、島根県に新しく工場を新設していますが、設計を佐藤さんが手掛けて、私が施主代表の担当者というガネーシャコンビで絶賛建設中です。
ガネーシャとコンセプトでの関連性はあるんですか?
佐藤:ガネーシャは、新人研修中に寝食を共に暮らす場所ということで「ヒナから成長し、飛び立とうとする姿」
島根益田工場は、「成長した鳥が大きく羽ばたいている姿」
と、カツデンアーキテックのこれからの成長と発展を願って、というのがデザインの共通コンセプトだね。
右京:より概念的なところを深堀りしますが、佐藤さんの設計する建築物にはどういうことを一貫して重視しているんですか?
佐藤:建物は、建ててしまえばそこにあることに無感になってしまうことが多いんだよ。
でも本当は使われる中でも、見た者に感動と驚きを与えられたら、とずっと思っていて・・・
街に必要だから建てられるもののはずなのに、作り手の都合で必要な物だけを組み立てて作って、無機質になってしまっているのはもったいない。
そこに設計というエッセンスを入れることで、劇的に変わる例がいくつもあるからこそ、自分の建築もそうであれたら、と思っているね。
右京:最後に良い話が聞けました!
ありがとうございます!
佐藤:ずっと良い話してたつもりだったけど!
まとめ
カツデンアーキテックとして行うことは「建築に関わる仕事」ではありますが、建築工事の最初から最後までに携わることはまずありません。
そしてもし自宅を建てて施主になったとしても、ここまで工事に入り込むこともなかなかあるものではないと思います。
苦労はしましたが、建築を観る目が変わったり、考え方が変わったりと、自身の成長に寄与したことは間違いないです。
自分だけでなく、様々な関係者にもいろんな苦労を掛けましたが、インタビュー時にも語った「ガネーシャのために!」という社員の思いがあって、一丸となった姿がそこにはありました。
入居前のガネーシャで行った竣工パーティには、普段は飲み会に参加したがらないような人たちも興味津々で参加してくれて、思い思いに触ってみたり、腰掛けてみたり、揺らしてみたり、写真を撮ったり・・・
「これ◯◯さんが溶接したやつですよ!かっこいいですね!」なんて声を掛けたら、気恥ずかしそうに「まいっちゃうね・・・」なんて照れ笑いを浮かべたり・・・
それぞれがその空間と自分たち自身が手掛けた製品(もちろん食事とお酒も)を堪能してくれた盛大な会となりました。
残念ながら、未だにファミリールームは空いたままですが、全国の営業所から工場への出張のためのゲストルームとして、今は使用しています。
「出張が快適になった」という言葉をかけてもらったときは思わずにやけてしまいました。
当の私は、自宅が車で15分くらいのところにあるため、一度も宿泊したことがないのですが・・・
竣工パーティ前夜、最後の自社製品の施工を終えて、ひとり床に寝そべって深呼吸。
私にとって特別で格別な新築の香りでした。