はじめまして、設計部の松原です。
カツデンアーキテックでは、トライアスロン用のフェンスを製作し、間接的ながらも2020年の東京五輪に関わることができました。
「トライアスロンのフェンスって何?」
「そもそもトライアスロンって何?」
という方もいると思うので、そこから説明をはじめます。
トライアスロンとは
トライアスロンは1974年、アメリカ・カリフォルニア州サンディエゴで誕生し、水泳(スイム)・自転車(バイク)・ランニング(ラン)の3種目を連続して行うことから、ラテン語の“3(トライ)”と”競技(アスロン)”という意味を組み合わせてトライアスロンとなりました。
競技の種類によって、それぞれの種目の距離は異なりますが、「Olympic Distance(オリンピックで行われるトライアスロンの距離)」では、以下の規格となっています。
スイム:1.5km
バイク:40km
ラン :10km
これだけ見てもかなり過酷な競技です。
運動不足の私なら、スイム1.5kmだけでもやり切れるか不安なところ・・・
フェンスを受注するに至った経緯
きっかけは2014年のある日。日本トライアスロン連合(以下JTU)の方からの1本の電話でした。
JTU 「カツデンアーキテックでフェンスを作っていますよね?」
カツデン「手すりは作ってますけど、フェンスは作っていませんね。」
JTU 「似たようなものだから、協力してくれませんか?」
簡単に要約すると上記のような会話。
確かにプレーン手すりとただの”フェンス”は似てるものかもしれませんが、観戦用のフェンスとなると強度や耐久性などもまた別の構造を考える必要があります。
ただJTUとしては現在のフェンスが古くなってきたタイミングだったので、ちょうどデザインいい手すり作っているところを見つけたしやってもらおう!という状態でした。
今まで使っていたフェンスの機能はこのような垂直に立ったデザイン。
今あるフェンスは
・バナーを張れる
・連結できる
・のぼりを立てられる
と必要最低限のものです。
会場設営時にこれを人力で並べていくのですが、1つ30kgほどの重さがあるため、1人では持ち上げられず、フェンスのためだけにさらに人員を投入する必要もあったのです。
そこで新しくするにあたり求められた機能は
・現状より軽い
・人が寄りかかったり接触しても倒れにくい
・積載効率が良い
・子どもが間をすり抜けられな
という4点。
ただカツデンアーキテックといえば機能はもちろんのこと、デザインにも力を入れているのが特徴です。
せっかくだしちゃんとデザインも検討しよう、ということで「トライアスロン 国際大会」と検索して出てくる画像のフェンスを片っ端から見ていきました。
調べていくとバナー面が斜めになっているデザインを見つけ、「これならばフェンスに貼るバナーも現状よりも見やすくもなる」と考えました。
早速そのイメージで、数々の製品デザインを手掛けるAlegre Designへデザインの依頼をしました。
スペインのプロダクトデザイナー集団であるAlegre Design社は、当社ではAthleticSeries(アスレチックシリーズ)やサイクルスタンドD-NA(ディーナ)、キャットシェルフNeconoMa(ネコノマ)など、数多くの製品を形にしてきています。
今回JTUから示された初回提案の納期が短めだったこともあり、Alegre Design社はフェンスのデザイン経験がないものの、これまでの実績から信頼できるパートナーである彼らと組むことに決めました。
デザインは問題ないものの・・・
Alegre Designに上記の要件を投げたところ、2週間ほどで早速いくつかの案が出てきました。
相変わらずデザインは信頼している通り良いものが出てきました。
一方で以下の点が課題として残ってしまったので、解決していく必要が出てきます。
【1】「積載効率が良い」の定義が明確ではなかった
→フレーム部分の厚みと大きさの中で置ける形を目指す
【2】重すぎて運ぶのが大変そうなものか、軽すぎて倒れやすそうなデザインのどちらかになっている
→重量と強度のバランスを取る
【3】材料費、加工費がかかりすぎる
→機能として必要なデザインのみを残す
お互いに通訳を介してどうすればいいのか、この機能とデザインの両立は・・・?と詰めていき、課題点を解決するデザインができました。
このデザインでは、正面からフェンスの脚が見えない方がバナーがさらに目に入りやすく美しくなるのです。
デザインは完了。細かな構造と積載効率は当社で作りながら考えることにして進めることになりました。
図面を形にする作業の苦難
図面上では実現可能だと見込んでいても、実際に作ってみると難しいということは、ものづくりでは良くあります。
今回のフェンスでも想像通り、設計でも生産も困難を極めることとなりました。
まず部品。
社内で製作できない部品もあったため一部を外注に出したものの、それでも試作時には採算が取れるほどのスピードで作ることができなかったのです。
次に積載効率を上げるためのフェンスの脚に切り欠きを入れる工程。
文面ではそうでもないこの工程が、技術的にとても難しかったのです。
当社製品の中は、見た目上はシンプルで簡単そうでも技術的に難しいことはよくあることで、このフェンスの脚の切り欠きも例外ではありませんでした。
30年ほどの付き合いをしている外注先との信頼関係を構築して、できないものはお願いするというフロー作りであったり、生産スピードを上げるためのジグ(加工時に固定する器具)を考えて作ってみたり、専用の加工機械を選定し購入したり・・・。
と、ここに書いてしまうと説明だけで読むのに1日かかるぐらいのこと、なんとをわずか数日間で行ってしまったのです。
書ききれない量の問題を解決しながら、量産できる体制にまで持っていった生産部は自社のことながら見事という他ないです。
そして生産体制ができあがり試作をしてはフィードバックをもらってやり直すということを繰り返しすこと数か月。
最後の仕様確定時から1ヶ月で約800枚という、とんでもない物量の生産を終えようやく納品となりました。
デザインと機能性を両立させたフェンス
競技用のフェンスをしっかり見たことがない方も、Before Afterで見比べたら分かるのではないでしょうか?
カツデンアーキテックならではのミニマルデザイン。そして構造を極力シンプルにしたことに加え、安定感とスタイリッシュさを兼ね備えたデザインに仕上がりました。
初案では満たせていなかった積載効率に関しては、苦労した脚に切り欠きを入れることによって、外側フレームのパイプ経の厚みですべてのパーツが収まるようになっています。
Alegre Designからのアイディア、カツデンアーキテックの設計と生産能力、そして外注先として協力してくれた業者それぞれが力を発揮して作り上げたプロダクトです。
いつも新商品を開発する際は、毎回高い壁があり登るのに苦労していますが、
2014年にスタートしてから約5年もかけて開発をしてきた今回のプロジェクトはにもさまざまな困難があり、これまで書いた量に納まらないレベルの問題も多くありました。
その面での精神的な苦労が一番に思い浮かぶプロジェクトだったものの、関わった社員は口を揃えて「みんなの力で解決したことがワクワクした」と振り返ります。
多くのスポーツも「みんなの力」で乗り越えていくものも多く、表には見えないこんなところでも我々は違う角度で頑張っているんだよということを知ってもらえれば、今回の案件に関わったかいがあると思っています。
ちなみにカツデンアーキテックは、この件から日本トライアスロン連合のスポンサーにもなっています。
もし鉄人レースと呼ばれるこの競技に興味を持った方がいれば、国内外で様々なレースが開催されているので、ご覧ください。
また、この件をきっかけにカツデンアーキテックは、公益社団法人日本トライアスロン連合(JTU)のオフィシャルスポンサーとなりました ※2019-2020。
注目されつつあるこの競技を、わずかでもサポートできればと思っております。